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直線となって中庭を横切っている。中庭の両側には鉄筋コンクリート三階建ての棟がふたつc平行に並んでいる。窓の沢山ついた大きな建物でcアパートを改造した刑務所かあるいは刑務所を改造したアパートみたいな印象を見るものに与える。しかし決して不潔ではないしc暗い印象もない。開け放しになった窓からはラジオの音が聴こえる。窓のカーテンはどの部屋も同じクリーム色c日焼けがいちばん目立たない色だ。

    舗道をまっすぐ行った正面には二階建ての本部建物がある。一階には食堂と大きな浴場c二階には講堂といくつかの集会室cそれから何に使うのかは知らないけれど貴賓室まである。本部建物のとなりには三つ目の寮棟がある。これも三階建てだ。中庭は広くc緑の芝生の中ではスプリンクラーが太陽の光を反射させながらぐるぐると回っている。本部建物の裏手には野球とサッカーの兼用グラウンドとテニスコートが六面ある。至れり尽せりだ。

    この寮の唯一の問題点はその根本的なうさん臭さにあった。寮はあるきわめて右翼的な人物を中心とする正体不明の財団法人によって運営されておりcその運営方針は――もちろん僕の目から見ればということだが――かなり奇妙に歪んだものだった。入寮案内のパンフレットと寮生規則を読めばそのだいたいのところはわかる。「教育の根幹を窮め国家にとって有為な人材の育成につとめる」cこれがこの寮創設の精神でありcそしてその精神に賛同した多くの財界人が私財を投じというのが表向きの顔なのだがcその裏のことは例によって曖昧模糊としている。正確なところは誰にもわからない。ただの税金対策だと言うものもいるしc売名行為だと言うものもいるしc寮設立という名目でこの一等地を詐欺同然のやりくちで手に入れたんだと言うものもいる。いやcもっともっと深い読みがあるんだと言うものもいる。彼の説によればこの寮の出身者で政財界に地下の閥を作ろうというのが設立者の目的なのだということであった。たしかに寮には寮生の中のトップエリートをあつめた特権的なクラブのようなものがあってc僕もくわしいことはよく知らないけれどc月に何度かその設立者をまじえて研究会のようなものを開いておりcそのクラブに入っている限り就職の心配はないということであった。そんな説のいったいどれが正しくてどれが間違っているのか僕には判断できないがcそれらの説は「とにかくここはうさん臭いんだ」という点で共通していた。

    いずれにせよ一九六八年の春から七〇年の春までの二年間を僕はこのうさん臭い寮で過した。どうしてそんなうさん臭いところに二年もいたのだと訊かれても答えようがない。日常生活というレベルから見れば右翼だろうが左翼だろうがc偽善だろうが偽悪だろうがcそれほどたいした違いはないのだ。

    寮の一日は荘厳な国旗掲揚とともに始まる。もちろん国歌も流れる。スポーツニュースからマーチが切り離せないようにc国旗掲揚から国歌は切り離せない。国旗掲揚台は中庭のまん中にあってどの寮棟の窓からも見えるようになっている。

    国旗を掲揚するのは東棟僕の入っている寮だの寮長の役目だった。背が高くて目つきの鋭い六十前後の男だ。いかにも硬そうな髪にいくらか白髪がまじりc日焼けした首筋に長い傷あとがある。この人物は陸軍中野学校の出身という話だったがcこれも真偽のほどはわからない。そのとなりにはこの国旗掲揚を手伝う助手の如き立場の学生が控えている。この学生のことは誰もよく知らない。丸刈りでcいつも学生服を着ている。名前も知らないしcどの部屋に
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