をよく知っている。金さえあればc不可能なことはないのだ。たとえcかたき討ちでも。

    そんな事情を知らない城代家老はc首をかしげ腕組みをする。

    「どうたのんでも決心は変らぬようだな。しかしcそれにしてもcそちの留守中の財政のことが心配でならぬ」

    「出発は四日後にいたします。そのあいだにc数カ月間の金のやりくりについてc指示を与えておきます。またc商人たちにも会いcよろしくたのんでおきます。途中でなにか思いついたらc手紙で対策を命じます」

    「それはありがたい。ところでc正式にかたき討ちに出るとなるとc家督相続c奉行への就任はそのあとということになる。そちの留守中cわたしが勘定奉行を兼任することにしよう。だれかを任命しcあとで格下げでは当人に気の毒だ」

    「大変なお心づかい」

    「勘定奉行の地位はc保証しておく。そればかりではない。帰国のあかつきにはc加増は確実だぞ。藩としてもめでたいことだしc殿もお喜びになる。そうだ。旅費がいるだろう。好きなだけ持って行くがいい。なにかと金がかかるものだぞ」

    「ありがたいお話ですがc武士のたしなみcいくらかのたくわえはございます。それにc勘定方をつとめる者がcかたき討ちという私的なことに金を持ち出したとあってはcひと聞きがよくございません。よくない前例を作ることにもなります」

    「それもそうだな。なにからなにまでcみごとな心がけ。感心のほかはない。そちは修左衛門にまさる人物のようだな」

    「おそれ入ります。お願いはcあだ討ちの免許状のことだけです」

    「わかっておる。江戸屋敷を通じcすぐ幕府へとどけさせる。その控えとc事情を書いてわたしの印を押した書類とを作って渡す。それがあればcどこからも文句は出ない。どこの関所も通れる」

    「ありがとうございます」

    「かたきにめぐり会えぬようだったらc途中で帰国してもいいぞ。上意討ちに切り換えるようにする。藩の財政のほうが重要なのだ」

    いたれりつくせりの条件だった。普通だとcわずかのせんべつだけで追い立てられc目的をとげるまで帰国は許されないのだ。

    この修吾の場合はcもっともっと条件がよかった。留守中の注意を勘定頭たちに指示して帰宅するとc毎晩のようにc城下の大商人たちがやってくる。

    「修左衛門さまにはcひとかたならぬお世話になりcもうけさせていただきました。惜しいかたです。これは少しですがc香典として供えさせて」

    「かたじけない。じつはcわたしはcそのあだ討ちに出かけなくてはならない」

    「そのうわさはcもっぱらでございますよ。なんという勇ましいこと。めでたく本懐をとげて帰国なさればc勘定奉行とか。そうなったらc先代さま同様cよろしくお引き立てのほどを」

    「承知しているよ」

    「その日が一日も早いようにとcちょっとした品を持ってまいりました。きっとお役に立ちましょう」

    ずしりとした手ごたえでc小判の包みとすぐわかる。

    「かたじけない。かならず期待にこたえてごらんに入れます」

    かなりの金が集ったのだった。戸棚にためこんであった修左衛門の金と合計したらcひと財産。一生遊んで暮せるほどになる。

    商人のなかにはcこんなのもあった。

    「かたき討ちとか。ご成功を祈ります」