「うまくやりとげるつもりだ」

    「なにかcせんべつの品をと思いましたがc重くてお荷物になってはと思いcこんなものを持ってまいりました。どうぞ」

    「書状のようですな」

    「はい。各地の同業者へのcわたくしからの紹介状です。お金にお困りになりましたらcこれをお示しになって下さい。いくらでも用立ててくれるはずです。あとはcわたくしが始末しますからcご遠慮なく借用証をお書き下さい。これはc全国の地図にc同業者の店の所在地をし

    るしたものです」

    「それはそれはc便利なものをcありがたくいただいておく」

    「そのかわりc勘定奉行にご就任のあとはcよろしくお願いしますよ」

    「わかっているよ」

    もっとすごいせんべつをくれた商人もあった。

    「かたきの駒山久三郎の似顔絵をc各地の同業者にくばってあります。姿を見かけたらすぐ連絡がとれるように手配しております。大きな町にお寄りの時はcわたくしの同業者をおたずね下さい」

    「それこそcなによりのご好意c利用させていただくよ」

    「その似顔絵を少し余分に刷りましたのでc持参いたしました。旅のお荷物にお加え下さい。必要になる場合もございましょう」

    「かさねがさねcかたじけない」

    商人たちはc話のわかる勘定奉行をなんとか早く実現させたいとcみなcわがことのように熱心だった。

    赤松家は千二百石。使用人として若党十二人c中間八人c下女六人がおりcそれに馬四頭をそなえていた。中間とは荷物を運んだりc馬のせわなどをする雑用係。刀を差すことは許されていない。若党はそれより少し格が上c大小を差すことができc武士なみの服装。邸内にあっ

    てc取次ぎc身辺のせわなどc秘書のような仕事をしている。

    修吾はそのなかからc若党三人c中間四人を連れてゆくことにした。いずれも健康な若いやつ。馬は二頭頭は乗用頭は荷物用。資金は充分。途中で不足すればc手紙を屋敷に出しc若党に持ってくるように命じればいい。またc商人の紹介状を利用してもいい。

    まったくcかたき討ちとしてcたぐいまれな好条件の出発だった。

    修吾は馬にまたがりc供をひきつれcゆるゆる街道を進みながら言った。

    「まずcかねてからあこがれていた江戸へ出ることにしよう。こういう機会でもなければc江戸見物もできぬ。考えてみればc十九歳で養子となりc二十歳からお城づとめcいま三十五歳。十五年間c働きどおしだった」

    「さようでございますな」

    「かたき討ちが終ればc勘定奉行。そうなったらc江戸づめの仕事になることもなくc藩で人生をすごすことになる。心おきなく遊ぶのはcいましかないわけだ」

    江戸に入りcいちおう藩の江戸屋敷にあいさつ。それから一流の旅館に滞在することにした。さしあたりc各所を見物。さすがは花のお江戸。にぎやかでありcなにを見ても珍しかった。半年はたちまちのうちに過ぎる。

    「江戸にはc吉原とかいう面白いところがあるそうだ。ひとつc出かけてみよう」

    そこにはcたくさんの美女がいた。修吾はけっこうもてた。だがcばかではない。それは金があればこそだぐらいc自分でもわかっている。それがわかって遊んでいるとcとめどもなくおぼれることもない。毎日かよいつづけのせいもあったがc半月も