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がら訊いてみた。

    「そりゃもちろんあなたのことよ」と彼女は猫を抱きあげ頬ずりして言った。「きちんとしてるしc真面目な学生だって感心してたわよ」

    「僕のことですか」

    「そうよcもちろんあなたのことよ」とレイコさんは笑って言った。そして僕のギターをみつけて手にとりc少し調弦してからカルロスジョビンのデサフィナードを弾いた。彼女のギターを聴くのは久しぶりだったがcそれは前と同じように僕の心をあたためてくれた。

    「あなたギター練習してるの」

    「納屋に転がってたのを借りてきて少し弾いてるだけです」

    「じゃcあとで無料レッスンしてあげるわね」とレイコさんは言ってギターを置きcツイードの上着を脱いで縁側の柱にもたれc煙草を吸った。彼女は上着の下にマドラスチェックの半袖のシャツを着ていた。

    「ねえcこれこれ素敵なシャツでしょう」とレイコさんが言った。

    「そうですね」と僕も同意した。たしかにとても洒落た柄のシャツだった。

    「これc直子のなのよ」とレイコさんは言った。「知ってる直子と私って洋服のサイズ殆んど一緒だったのよ。とくにあそこに入った頃はね。そのあとであの子少し肉がついちゃてサイズが変わったけれどcそれでもだいたい同じって言ってもいいくらいだったのよ。シャツもズボンも靴も帽子も。ブラジャーくらいじゃないかしらcサイズが違うのは。私なんかおっばいないも同然だから。だから私たちいつも洋服とりかえっこしてたのよ。というか殆んど二人で共有してたようなものね」

    僕はあらためてレイコさんの体を見てみた。そう言われてみればたしかに彼女の背格好は直子と同じくらいだった。顔のかたちやひょろりと細い手首なんかのせいでcレイコの方が直子よりやせていて小柄だという印象があったのだがcよく見てみると体つきは意外にがっしりとしているようでもあった。

    「このズボンも上着もそうよ。全部直子の。あなたは私が直子のものを身につけてるの見るの嫌」

    「そんなことないですよ。直子だって誰かに着てもらっている方が嬉しいと思いますね。とくにレイコさんに」

    「不思議なのよ」とレイコさんは言って小さな音で指を鳴らした。「直子は誰にあてても遺書を書かなかったんだけどc洋服のことだけはちゃんと書き残していったのよ。メモ用紙に一行だけ走り書きしてcそれが机の上に置いてあったの。洋服は全部レイコさんにあげて下さいって。変な子だと思わない自分がこれから死のうと思ってるときにどうして洋服のことなんか考えるのかしらね。そんなのどうだっていいじゃない。もっと他に言いたいことは山ほどあったはずなのに」

    「何もなかったのかもしれませんよ」

    レイコさんは煙草をふかしながらしばらく物思いに耽っていた。「ねえcあなたc最初からひとつ話を聞きたいでしょう」

    「話して下さい」と僕は言った。

    「病院での検査の結果がわかってc直子の病状は一応今のところ回復しているけれど今のうちに根本的に集中治療しておいた方があとあとのために良いだろうってことになってc直子はもう少し長期的にその大阪の病院に移ることになったの。そこまではたしか手紙に書いたわよね。たしか八月の十日前後に出したと思ったけど」

    「その手紙は読みました」

    「八月二十四日に直子のお母さんから電話がかかってきてc直子が一度そち
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