彼はそういう人じゃないわよ。自分のものをとてもきちんと大事にする人よ。私わかるもの。だから女の子を紹介しようとしたのよ」
「でも俺とワタナベで一度女をとりかえっこしたことあるよc前に。なあcそうだよな」永沢さんは何でもないという顔をしてウィスキーのグラスをあけcおわかりを注文した。
ハツミさんはフォークとナイフを下に置きcナプキンでそっと口を拭った。そして僕の顔を見た。「ワタナベ君cあなた本当にそんなことしたの」
どう答えていいのかわからなかったのでc僕は黙っていた。
「ちゃんと話せよ。かまわないよ」と永沢さんが言った。まずいことになってきたと僕は思った。時々酒が入ると永沢さんは意地がわるくなることがあるのだ。そして今夜の彼の意地のわるさは僕に向けられたものではなくcハツミさんに向けられたものだった。それがわかっていたものでc僕としても余計に居心地がわるかった。
「その話聞きたいわ。すごく面白そうじゃない」とハツミさんが僕に言った。
「酔払ってたんです」と僕は言った。
「いいのよcべつに。責めてるわけじゃないんだから。ただその話を聞かせてほしいだけなの」
「渋谷のバーで永沢さんと二人で飲んでいてc二人連れの女の子と仲良くなったんです。どこかの短大の女の子でc向うも結構出来上っていてcそれでまあ結局そのへんのホテルに入って寝たんです。僕と永沢さんとで隣りどうしの部屋をとって。そうしたら夜中に永沢さんが僕の部屋をノックしてcおいワタナベc女の子とりかえようぜって言うからc僕が永沢さんの方に行ってc永沢さんが僕の方に来たんです」
「その女の子たちは怒らなかったの」
「その子たちも酔ってたしcそれにどっちだってよかったんです。結局その子たちとしても」
「そうするにはそうするだけの理由があったんだよ」と永沢さんが言った。
「どんな理由」
「その二人組の女の子だけどcちょっと差がありすぎたんだよ。一人の子はきれいだったんだけどcもう一人がひどくってさcそういうの不公平だと思ったんだ。つまり俺が美人の方をとっちゃったからさcワタナベにわるいじゃないか。だから交換したんだよ。そうだよなcワタナベ」
「まあcそうですね」と僕は言った。しかし本当のことを言えばc僕はその美人じゃない子の方をけっこう気に入っていたのだ。話していて面白かったしc性格もいい子だった。僕と彼女がセックスのあとベッドの中でわりに楽しく話をしているとc永沢さんが来てとりかえっこしようぜと言ったのだ。僕がその子にいいかなと訊くとcまあいいわよcあなたたちそうしたいんならcと彼女は言った。彼女はたぶん僕がその美人の子の方とやりたがっていると思ったのだろう。
「楽しかった」とハツミさんが僕に訊いた。
「交換のことですか」
「そんな何やかやが」
「べつにとくに楽しくはないです」と僕は言った。「ただやるだけです。そんな風に女の子と寝たってとくに何か楽しいことがあるわけじゃないです」
「じゃあ何故そんなことするの」
「俺が誘うからだよ」と永沢さんが言った。
「私cワタナベ君に質問してるのよ」とハツミさんはきっぱりと言った。「どうしてそんなことするの」
「ときどきすごく女の子と寝たくなるんです」と僕