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でc僕は耳を寄せてみた。cもういいcと彼は乾いた小さな声で言った。その声はさっきよりもっと乾いてcもっと小さくなっていた。

    「何か食べませんか腹減ったでしょうう」と僕は訊いた。父親はまた小さく肯いた。僕は緑がやっていたようにハンドルをまわしてベットを起こしc野菜のゼリーと煮魚をスプーンでかわりばんこにひと口ずつすくって食べさせた。すごく長い時間をかけてその半分ほどを食べてからcもういいという風に彼は首を小さく横に振った。頭を大きく動かすと痛みがあるらしくcほんのちょっとしか動かさなかった。フルーツはどうするかと訊くと彼はcいらないcと言った。僕はタオルで口もとを拭きcベットを水平に戻しc食器を廊下に出しておいた。

    「うまかったですか」と僕は訊いてみた。

    cまずいcと彼は言った。

    「うんcたしかにあまりうまそうな代物ではないですね」と僕は笑って言った。父親は何も言わずにc閉じようか開けようか迷っているような目でじっと僕を見ていた。この男は僕が誰だかわかっているのかなと僕はふと思った。彼はなんとなく緑といるときより僕と二人になっているときの方がリラックスしているように見えたからだ。あるいは僕のことを他の誰かと間違えているのかもしれなかった。もしそうだとすれば僕にとってはその方が有難かった。

    「外は良い天気ですよcすごく」と僕は丸椅子に座って脚を組んで言った。「秋でc日曜日でcお天気でcどこに行っても人でいっばいですよ。そういう日にこんな風に部屋の中でのんびりしているのがいちばんですねc疲れないですむし。混んだところ行ったって疲れるだけだしc空気もわるいし。僕は日曜日だいたい洗濯するんです。朝に洗ってc寮の屋上に干してc夕方前にとりこんでせっせとアイロンをかけます。アイロンかけるの嫌いじゃないですねc僕は。くしゃくしゃのものがまっすぐになるのってcなかなかいいもんですよcあれ。僕アイロンがけcわりに上手いんです。最初のうちはもちろん上手くいかなかったですよcなかなか。ほらc筋だらけになっちゃったりしてね。でも一か月やってりゃ馴れちゃいました。そんなわけで日曜日は洗濯とアイロンがけの日なんです。今日はできませんでしたけどねc残念ですねcこんな絶好の洗濯日和なのにね。

    でも大丈夫ですよ。朝早く起きて明日やりますから。べつに気にしなくっていいです。日曜日ったって他にやること何もないんですから。

    明日の朝洗濯して干してからc十時の講義に出ます。この講義はミドリさんと一緒なんです。演劇史2でc今はエウリビデスをやっています。エウリビデス知ってますか昔のギリシャ人でcアイスキュロスcソフォクレスならんでギリシャ悲劇のビッグスリーと言われています。最後はマケドニアで犬に食われて死んだということになっていますがcこれには異説もあります。これがエウリビデスです。僕はソフォクレスの方が好きですけどねcまあこれは好みの問題でしょうね。だからなんとも言えないです。

    彼の芝居の特徴はいろんな物事がぐしゃぐしゃに混乱して身働きがとれなくなってしまうことなんです。わかりますかいろんな人が出てきてcそのそれぞれにそれぞれの事情と理由と言いぶんがあってc誰もがそれなりの正義と幸福を追求しているわけです。そしてそのおかげで全員がにっちもさっちもいかなくなっちゃうんです。そりゃそうですよね。みんなの正義がとおってcみんなの幸福が達成されるということは原理的にありえないですからねc
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