言った。勉強もいちばんならスポーツもいちばんc人望もあって指導力もあってc親切で性格もさっぱりしているから男の子にも人気があってc先生にもかわいがられてc表彰状が百枚もあってという女の子だった。どの公立校にも一人くらいこういう女の子がいる。でも自分のお姉さんだから言うわけじゃないんだけれどcそういうことでスボイルされてcつんつんしたり鼻にかけたりするような人ではなかったしc派手に人目をつくのを好む人でもなかったcただ何をやらせても自然に一番になってしまうだけだったのだcと。
「それで私c小さい頃から可愛い女の子になってやろうと決心したの」と直子はすすきの穂をくるくると回しながら言った。「だってそうでしょうcずっとまわりの人がお姉さんがいかに頭が良くてcスポーツができてc人望もあってなんて話してるの聞いて育ったんですもの。どう転んだってあの人には勝てないと思うわよ。それにまあ顔だけとれば私の方が少しきれいだったからc親の方も私は可愛く育てようと思ったみたいね。だからあんな学校に小学校からいれられちゃったのよ。ベルベットのワンピースとかフリルのついたブラウスとかエナメルの靴とかcピアノやバレエのレッスンとかね。でもおかげでお姉さんは私のことすごく可愛がってくれたわc可愛い小さな妹って風にね。こまごまとしたもの買ってプレゼントしてくれたしcいろんなところにつれていってくれたりc勉強みてくれたり。ボーイフレンドとデートするとき私も一緒につれてってくれたりもしたのよ。とても素敵なお姉さんだったわ。
彼女がどうして自殺しちゃったのかc誰にもその理由はわからなかったの。キズキ君のときと同じようにね。全く同じなのよ。年も十七でcその直前まで自殺するような素振りはなくてc遺書もなくて――同じでしょう」
「そうだね」と僕は言った。
「みんなはあの子は頭が良すぎたんだとか本を読みすぎたんだとか言ってたわ。まあたしかに本はよく読んでいたわね。いっぱ本を持っててc私はお姉さんが死んだあとでずいぶんそれ読んだんだけどc哀しかったわ。書きこみしてあったりc押し花がはさんであったりcボーイフレンドの手紙がはさんであったり。そういうので私c何度も泣いたのよ」
直子はしばらくまた黙ってすすきの穂をまわしていた。
「大抵のことは自分一人で処理しちゃう人だったのよ。誰かに相談したりc助けを求めたりということはまずないの。べつにプライドが高くてというじゃないのよ。ただそうするのが当然だと思ってそうしていたのねcたぶん。そして両親もそれに馴れちゃっててcこの子は放っておいても大丈夫って思ってたのね。私はよくお姉さんに相談したしc彼女はとても親切にいろんなこと教えてくれるんだけどc自分は誰にも相談しないの。一人で片づけちゃうの。怒ることもないしc不機嫌になることもないの。本当よこれ。誇張じゃなくて。女の人ってcたとえば生理になったりするとムシャクシャして人にあたったりするでしょc多かれ少なかれ。そういうのもないの。彼女の場合は不機嫌になるかわりに沈みこんでしまうの。二ヶ月か三ヶ月に一度くらいそういうのが来てc二日くらいずっと自分の部屋に籠って寝てるの。学校も休んでc物も殆んど食べないで。部屋を暗くしてc何もしないでボオッとしてるの。でも不機嫌というじゃないのよ。私が学校から戻ると部屋に呼んでc隣りに座らせてc私のその日いちにちのことを聞くの。たいした話じゃないのよ。友だちと何をして遊んだとかc先生がこ