の住所には「阿美寮」と書いてあった。奇妙な名前だった。僕はその名前について五c六分間考えをめぐらせてからcこれはたぶんフランス語のa友だちからとったものだろうと想像した。
手紙を机の引き出しにしまってからc僕は服を着替えて外に出た。その手紙の近くにいると十回も二十回も読み返してしまいそうな気がしたからだ。僕は以前直子と二人でいつもそうしていたようにc日曜日の東京の町をあてもなく一人でぶらぶらと歩いた。彼女の手紙の一行一行を思い出しcそれについて僕なりに思いをめぐらしながらc僕は町の通りから通りへとさまよった。そして日が暮れてから寮に戻りc直子のいる「阿美寮」に長距離電話をかけてみた。受付の女性が出てc僕の用件を聞いた。僕は直子の名前を言いcできることなら明日の昼過ぎに面会に行きたいのだが可能だろうかと訊ねてみた。彼女は僕の名前を聞きc三十分あとでもう一度電話をかけてほしいと言った。
僕は食事のあとで電話をすると同じ女性が出て面会は可能ですのでどうぞお越し下さいと言った。僕は礼を言って電話を切りcナップザックに着替えと洗面用具をつめた。そして眠くなるまでブランディを飲みながら魔の山のつづきを読んだ。それでもやっと眠ることができたのは午前一時を過ぎてからだった。
六
月曜日の朝の七時に目を覚ますと僕は急いで顔を洗って髭を剃りc朝食は食べずにすぐに寮長の部屋に行きc二日ほど山登りしてきますのでよろしくと言った。僕はそれまでにも暇になると何度も小旅行をしていたからc寮長もああと言っただけだった。僕は混んだ通勤電車に乗って東京駅に行きc京都までの新幹線自由席の切符を買いcいちばん早い「ひかり」に文字どおりとび乗りc熱いコーヒーとサンドイッチを朝食がわりに食べた。そして一時間ほどうとうとと眠った。
京都駅についたのは十一時少し前だった。僕は直子の指示に従っ
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