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れcと僕は思った。

    「じゃあ歩み寄ろう」と僕は言った。「ラジオ体操をやってもかまわない。そのかわり跳躍のところだけはやめてくれよ。あれすごくうるさいから。それでいいだろ」

    「ちょc跳躍」と彼はびっくりしたように訊きかえした。「跳躍ってなんだいcそれ」

    「跳躍といえば跳躍だよ。ぴょんぴょん跳ぶやつだよ」

    「そんなのないよ」

    僕の頭は痛みはじめた。もうどうでもいいやという気もしたがcまあ言いだしたことははっきりさせておこうと思ってc僕は実際にnhkラジオ体操第一のメロディーを唄いながら床の上でぴょんぴょん跳んだ。

    「ほらcこれだよcちゃんとあるだろう」

    「そcそうだな。たしかにあるな。気がつcつかなかった」

    「だからさ」と僕はベッドの上に腰を下ろして言った。「そこの部分だけを端折ってほしいんだよ。他のところは全部我慢するから。跳躍のところだけをやめて僕をぐっすり眠らせてくれないかな」

    「駄目だよ」と彼は実にあっさりと言った。「ひとつだけ抜かすってわけにはいかないんだよ。十年も毎日毎日やってるからさcやり始めるとcむc無意識に全部やっちゃうんだ。ひとつ抜かすとさcみcみcみんな出来なくなっちゃう」

    僕はそれ以上何も言えなかった。いったい何が言えるだろういちばん手っ取り早いのはそのいまいましいラジオを彼のいないあいだに窓から放りだしてしまうことだったがcそんなことをしたら地獄のふたをあけたような騒ぎがもちあがるのは目に見えていた。突撃隊は自分のもち物を極端に大事にする男だったからだ。僕が言葉を失って空しくベッドに腰かけていると彼はにこにこしながら僕を慰めてくれた。

    「ワcワタナベ君もさ緒に起きて体操するといいのにさ」と彼は言ってcそれから朝食を食べに行ってしまった。

    *

    僕が突撃隊と彼のラジオ体操の話をするとc直子はくすくすと笑った。笑い話のつもりではなかったのだけれどc結局は僕も笑った。彼女の笑顔を見るのは――それはほんの一瞬のうちに消えてしまったのだけれど――本当に久しぶりだった。

    僕と直子は四ッ谷駅で電車を降りてc線路わきの土手を市ヶ谷の方に向けて歩いていた。五月の半ばの日曜日の午後だった。朝方ばらばらと降ったりやんだりしていた雨も昼前には完全にあがりc低くたれこめていたうっとうしい雨雲は南からの風に追い払われるように姿を消していた。鮮かな緑色をした桜の葉が風に揺れc太陽の光をきらきらと反射させていた。日射しはもう初夏のものだった。すれちがう人々はセーターや上着を脱いて肩にかけたり腕にかかえたりしていた。日曜日の午後のあたたかい日差しの下ではc誰もがみんな幸せそうに見えた。土手の向うに見えるテニスコートでは若い男がシャツを脱いでショートハンツ一枚になってラケットを振っていた。並んでペンチに座った二人の修道尼だけがきちんと黒い冬の制服を身にまとっていてc彼女たちのまわりにだけは夏の光もまだ届いていないように思えるのだがcそれでも二人は満ち足りた顔つきで日なたでの会話を楽しんでいた。

    十五分も歩くと背中に汗がにじんできたのでc僕は厚い木綿のシャツを脱いでtシャツ一枚になった。彼女は淡いグレーのトレーナーシャツの袖を肘の上までたくしあげていた。よく洗いこまれたものらしくcずいぶん感じよく色が褪せていた。ずっと前にそれと同じシャツを彼女が着ているのを
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