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ーケースを持ちc二人でプラットフォームのベンチに並んで座って列車が来るのを待っていた。彼女は東京に来たときと同じツイードのジャケットを着てc白いズボンをはいていた。

    「旭川って本当にそれほど悪くないと思う」とレイコさんが訊いた。

    「良い町です」と僕は言った。「そのうちに訪ねていきます」

    「本当」

    僕は肯いた。「手紙書きます」

    「あなたの手紙好きよ。直子は全部焼いちゃったけれど。あんないい手紙だったのにね」

    「手紙なんてただの紙です」と僕は言った。「燃やしちゃっても心に残るものは残るしcとっておいても残らないものは残らないんです」

    「正直言って私cすごく怖いのよ。一人ぼっちで旭川に行くのが。だから手紙書いてね。あなたの手紙を読むといつもあなたがとなりにいるような気がするの」

    「僕の手紙でよければいくらでも書きます。でも大丈夫です。レイコさんならどこにいてもきっとうまくやれますよ」

    「それから私の体の中で何かがまだつっかえているような気がするんだけれどcこれは錯覚かしら」

    「残存記憶ですcそれは」と僕は言って笑った。レイコさんも笑った。

    「私のこと忘れないでね」と彼女は言った。

    「忘れませんよcずっと」と僕は言った。

    「あなたと会うことは二度とないかもしれないけれどc私どこに行ってもあなたと直子のこといつまでも覚えているわよ」

    僕はレイコさんの目を見た。彼女は泣いていた。僕は思わず彼女に口づけした。まわりを通りすぎる人たちは僕たちのことをじろじろとみていたけれどc僕にはもうそんなことは気にならなかった。我々は生きていたしc生きつづけることだけを考えなくてはならなかったのだ。

    「幸せになりなさい」と別れ際にレイコさんは僕に言った。「私cあなたに忠告できることは全部忠告しちゃったからcこれ以上もう何も言えないのよ。幸せになりなさいとしか。私のぶんと直子のぶんをあわせたくらい幸せになりなさいcとしかね」

    我々は握手をして別れた。

    僕は緑に電話をかけc君とどうしても話がしたいんだ。話すことがいっぱいある。話さなくちゃいけないことがいっぱいある。世界中に君以外に求めるものは何もない。君と会って話したい。何もかもを君と二人で最初から始めたいcと言った。

    緑は長いあいだ電話の向うで黙っていた。まるで世界中の細かい雨が世界中の芝生に降っているようなそんな沈黙がつづいた。僕がそのあいだガラス窓にずっと押しつけて目を閉じていた。それからやがて緑が口を開いた。「あなたc今どこにいるの」と彼女は静かな声で言った。

    僕は今どこにいるのだ

    僕は受話器を持ったまま顔を上げc電話ボックスのまわりをぐるりと見まわしてみた。僕は今どこにいるのだでもそこがどこなのか僕にはわからなかった。見当もつかなかった。いったいここはどこなんだ僕の目にうつるのはいずこへともなく歩きすぎていく無数の人々の姿だけだった。僕はどこでもない場所のまん中で緑を呼びつづけていた。

    あとがき

    僕は原則的に小説にあとがきをつけることを好まないがcおそらくこの小説はそれを必要とするだろうと思う。

    まず第一にcこの小説は五年ほど前に僕が書いた螢という短篇小説螢納屋を焼くその他の短編に収録されているが軸にな
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