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 「私の問題は全部精神的なものよ」と直子は言った。「もし私が一生濡れることがなくて生セックスができなくてもcそれでもあなたずっと私のこと好きでいられるずっとずっと手と唇だけで我慢できるそれともセックスの問題は他の女の人と寝て解決するの」

    「僕は本質的に楽天的な人間なんだよ」と僕は言った。

    直子はベッドの上で身を起こしてctシャツを頭からかぶりcフランネルのシャツを着てcブルージーンズをはいた。僕も服を着た。

    「ゆっくり考えさせてね」と直子は言った。「それからあなたもゆっくり考えてね」

    「考えるよ」と僕は言った。「それから君のフェラチオすごかったよ」

    直子は少し赤くなってcにっこり微笑んだ。「キズキ君もそう言ってたわ」

    「僕とあの男とは意見とか趣味とかがよくあうんだ」と僕は言ってcそして笑った。

    そして我々は台所でテーブルをはさんでcコーヒーを飲みながら昔の話をした。彼女は少しずつキズキの話ができるようになっていた。ぽつりぽつりと言葉を選びながらc彼女は話した。雪は降ったりやんだりしていたがc三日間一度も晴れ間は見えなかった。三月に来られると思うcと僕は別れ際に言った。そしてぶ厚いコートの上から彼女を抱いてc口づけした。さよならcと直子が言った。

    *

    一九七十年という耳馴れない響きの年はやってきてc僕の十代に完全に終止符を打った。そして僕は新しいぬかるみへ足を踏み入れた。学年末のテストがあってc僕は比較的楽にそれをパスした。他にやることもなくて殆んど毎日大学に通っていたわけだからc特別な勉強をしなくても試験をパスするくらい簡単なことだった。

    寮内ではいくつかトラブルがあった。セクトに入って活動している連中が寮内にヘルメットや鉄パイプを隠していてcそのことで寮長子飼いの体育会系の学生たちとこぜりあいがありc二人が怪我をして六人が寮を追い出された。その事件はかなりあとまで尾をひいてc毎日のようにどこかで小さな喧嘩があった。寮内にはずっと重苦しい空気が漂っていてcみんながピリピリとしていた。僕もそのとばっちりで体育会系の連中に殴られそうになったがc永沢さんが間に入ってなんとか話をつけてくれた。いずれにせよcこの寮を出る頃合だった。

    試験が一段落すると僕は真剣にアパートを探しはじめた。そして一週間かけてやっと吉祥寺の郊外に手頃な部屋をみつけた。交通の便はいささか悪かったがcありがたいことには一軒家だった。まあ掘りだしものと言ってもいいだろう。大きな地所の一角に離れか庭番小屋のようにそれはぽつんと建っていてc母屋とのあいだにはかなり荒れた庭が広がっていた。家主は表口を使いc僕は裏口を使うからプライヴァシーを守ることもできた。一部屋と小さなキッチンと便所cそれに常識ではちょっと考えられないくらい広い押入れがついていた。庭に面して縁側まであった。来年もしかしたら孫が東京に出てくるかもしれないのでcそのときは出ていくのは条件でcそのせいで相場からすれば家賃はかなり安かった。家主は気の好さそうな老夫婦でc別にむずかしいことは言わんから好きにおやりなさいと言ってくれた。

    引越しの方は永沢さんが手伝ってくれた。どこかから軽トラックを借りてきて僕の荷物を運びc約束どおり冷蔵庫とtvと大型の魔法瓶をプレゼントしてくれた。僕にとってはありがたいプレゼントだった。その二日後に彼も寮を出て三田のアパートに引越すこと
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