字体
第(4/5)页
关灯
   存书签 书架管理 返回目录
ままcそんな螢の姿を眺めていた。僕の方も螢の方も長いあいだ身動きひとつせずにそこにいた。風だけが我々のまわりを吹きすぎて行った。闇の中でけやきの木がその無数の葉をこすりあわせていた。

    僕はいつまでも待ちつづけた。

    螢が飛びたったのはずっとあとのことだった。螢は何かを思いついたようにふと羽を拡げcその次の瞬間には手すりを越えて淡い闇の中に浮かんでいた。それはまるで失われた時間をとり戻そうとするかのようにc給水塔のわきで素速く弧を描いた。そしてその光の線が風ににじむのを見届けるべく少しのあいだそこに留まってからcやがて東に向けて飛び去っていった。

    螢が消えてしまったあとでもcその光の軌跡は僕の中に長く留まっていた。目を閉じた分厚い闇の中をcそのささやかな淡い光はcまるで行き場を失った魂のようにcいつまでもいつまでもさまよいつづけていた。

    僕はそんな闇の中に何度も手をのばしてみた。指は何にも触れなかった。その小さな光はいつも僕の指のほんの少し先にあった。

    四

    夏休みのあいだに大学の機動隊の出動を要請しc機動隊はバリケードを叩きつぶしc中に籠っていた学生の全員逮捕した。その当時はどこの大学でも同じようなことをやっていたしc特に珍しい出来事ではなかった。大学は解体なんてはしなかった。大学には大量の資本が投下されているしcそんなものが学生が暴れたくらいで「はいcそうですか」とおとなしく解体されるわけがないのだ。そして大学をバリケード封鎖した連中も本当に大学を解体したいなんて思っていたわけではなかった。彼らは大学という機構のイニシアチブの変更を求めていただけだったしc僕にとってはイニシアチブがどうなるかなんてまったくどうでもいいことだった。だからストがたたきつぶされたところでc特になんの感慨も持たなかった。

    僕は九月になって大学がほとんど廃墟と化していることを期待していってみたのだがc大学はまったく無傷だった。図書館の本も略奪されることなくc教授室も破壊しつくされることはなくc学生課の建物も焼け落ちてはいなかった。あいつら一体何してたんだと僕は愕然とし思った。

    ストが解除され機動隊の占領下で講義が再開されるとcいちばん最初に出席してきたのはストを指導した立場にある連中だった。彼らは何事もなかったように教室に出てきてノートをとりc名前を呼ばれると返事をした。これはどうも変な話だった。なぜならスト決議はまだ有効だったしc誰もスト終結を宣言していなかったからだ。大学が機動隊を導入してバリケードを破壊しただけのことでc原理的にはストはまだ継続しているのだ。そして彼らはスト決議のときには言いたいだけ元気なことを言ってcストに反対するあるいは疑念を表明する学生を罵倒しcあるいは吊るし上げたのだ。僕は彼らのところに行ってcどうしてストを続けないで講義にでてくるのかcと訊いてみた。彼らには答えられなかった。答えられるわけがないのだ。彼らは出席不足で単位を落とすのが怖いのだ。そんな連中が大学解体を呼んでいたのかと思うとおかしくて仕方なかった。そんな下劣な連中が風向きひとつで大声を出したり小さくなったりするのだ。

    おいキズキcここはひどい世界だよcと僕は思った。こういう奴らがきちんと大学の単位をとって社会に出てcせっせと下劣な社会を作るんだ。

    僕はしばらくのあいだ講義に出ても出席をとるときには返事をしないことにした。そんなことをしたって何の意
上一页 目录 下一页