準備はできていた。

    修左衛門には娘がひとりあった。あまりできはよくなく美人でもなかったがc養子のきてならいくらでもある。武士の息子といってもc家をつげなければ一生ずっと日かげの身。なんの役にもつけない。一方c勘定奉行の家をつげるとなるとcそれは重要な地位。天と地の差があ

    る。

    赤松修左衛門は時間をかけc家臣の二男三男のなかからc適当な人物をえらび出した。勘定奉行だけあってc人を見る目はある。それをむこ養子にした。

    その青年は養子となるとともにc修吾と名が変った。やがてc赤松家の家督を相続すればcその代々の名c修左衛門を襲名することになる。そしてc勘定奉行の職をつげることも確実だった。

    家老とちがってc勘定奉行は世襲の地位ではない。しかしc修左衛門は気に入った養子のためcその対策をおこたらなかった。修吾を補佐役である勘定頭のひとりとして出仕できるように工作しc実現した。普通だとc家督をつがない限りお城への出勤はできないのだがcそこが

    修左衛門の実力だった。

    これはcわが娘のためでありc赤松家のためでありcひいては藩のためでもある。

    修吾はともにお城へ出仕しc公的な仕事の見習いをした。また帰宅するとc公用の席では口にできない裏面の秘ひ訣けつも教えられた。城下の大商人がcごきげんうかがいに屋敷へやってくるとc修左衛門は彼を同席させc紹介した。

    「これがわたしのあととりです。いろいろと教育しているところだ。よろしくたのむ」

    「こちらこそcなにぶんよろしく。お奉行さまのように物わかりのいいかたになっていただけるとcありがたいのですが」

    意味ありげに笑う商人にc修左衛門は言う。

    「そう仕上げるよう修業させている。なかなかみどころのあるやつだよ。おまえたちもcなんとか手伝ってくれ」

    「わかっておりますとも。そうときまったらcいかがでしょう。これから一杯」

    商人に案内されc料理屋へ出かけて豪遊することにもなるのだった。商人は武士にとって別人種といっていいほどのちがいがあるがcその操縦術をしだいに身につけc修吾もなかなかのやり手に成長していった。

    藩政の責任者である城代家老がc勘定奉行の部屋に来てcこんな話をすることもある。

    「江戸の殿からcまたも金がいるとの使いがあった」

    「なんとかいたしましょう」

    「いつもの報告だとcやりくりが大変だということだがcどうなのだ」

    「必要な経費とあらばcそれを調達するのが勘定奉行の仕事でございます」

    修左衛門は家老たちにcこの仕事が容易ならざるものだとcそれとなく毎回ふきこんでいるのだ。城代家老はうなずく。

    「そうであろう。わたしなどc数字を聞くだけで頭がおかしくなってくる。これだけの藩だ。財政は複雑きわまるものであろう。それがcなんとか運営できているというのもc修左衛門がいるからこそだ」

    「おそれ入ります」

    「しかしc気になってならぬ点がある。貴殿もかなりの年齢になってきた。出仕できなくなったらcあとはどうなるのだ」

    「そのことはご心配なく。修吾をみっちり仕込んでおります。やがてはcいくらかお役に立つようになりましょう」

    「それを聞いて安心した。武芸の達人は多いがc財政の達人